AKUMATO
DINNER

三嶋亭 / 京都・寺町三条

三嶋亭

すき焼きの答えは、ここにある。

黒い皿に盛られた、サシの入った牛肉

すき焼きを食べるために、京都へ向かう。

東京でも京都でも、これまで何軒ものすき焼き店を訪ねてきた。

それでも、三嶋亭を超える一軒には出会えていない。

数年前から、外ですき焼きを食べるのは三嶋亭だけになった。

京都・寺町三条。

賑わう街角に建つ三嶋亭は、明治6年創業の老舗である。

瓦屋根と行灯が印象的な京町家造りの建物は、街の風景の一部として150年以上の時を重ねてきた。

数寄屋造りの店内には、創業当時から残る欄干や格子、天井などがあり、京都という土地が積み重ねてきた時間を感じさせる。

三嶋亭の入口に掲げられた看板と行灯

気軽に尋ねられる、自然な距離感

席では、女将さんが肉を焼き、飲み物にも気を配ってくれる。

高級店では珍しくない接客の形だが、三嶋亭で嬉しいのは、その自然な距離感にある。

料理のこと、店の歴史、京都の街のこと。

気になったことを気軽に尋ねられる。

食事をしながら、この店を少しずつ深く知っていく時間も楽しみのひとつだ。

木の梁と格子のある、店内の廊下

熟成が生む、脂の甘さ

三嶋亭の美味しさを支えているのは、何より肉の熟成にあると思う。

以前、女将さんから興味深い話を伺った。

冷蔵庫のなかった時代、常温で置いていた肉が美味しくなったことが、熟成の始まりだったという。

もちろん、現在の熟成管理とは異なる時代の話だが、長く受け継がれてきた技術の原点を知るようで印象に残っている。

三嶋亭では、銘柄や格付けだけに頼らず肉を選び、独自の方法で熟成させている。

熟成の進み具合を見極め、その日に出す肉を変えているとも聞いた。

美しくサシの入った肉を口に運ぶと、脂の甘さと独特の香りが広がる。

これほど豊かな脂を持ちながら、不思議なほどしつこさがない。

何枚食べても、次の一枚が欲しくなる。

卵にくぐらせたすき焼きの肉

熟成によるものなのだろうか。

この脂の香りと味わいは、ほかではなかなか出会えない。

食べ終えたあとも記憶に残り、また京都へ足を向ける理由になっている。

その土地の料理を、その土地の酒とともに

地酒が充実していることも嬉しい。

地酒「神蔵」の瓶とグラス

その土地の料理を、その土地の酒とともに味わう。

特別なことではないけれど、これほど自然な組み合わせもないと思う。

土地の食文化を楽しもうとしたときに、酒の選択肢がきちんと用意されている。

そんな当たり前の豊かさが、食事の満足度をさらに高めてくれる。

何度でも戻りたくなる一軒

三嶋亭へ通い続ける理由は、単に美味しいからだけではない。

歴史ある建物、受け継がれる熟成の技術、女将さんとの会話、そして肉の味わい。

それぞれが無理なくひとつの体験として結びついている。

数多くの店を知ることより、何度でも戻りたくなる一軒を持つこと。

私たちにとって、すき焼きの答えは三嶋亭にある。

広く浅くではなく、狭く深く。

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